「見た目」は資産になる 山田秀和さん(近畿大学医学部奈良病院皮膚科教授、アンチエイジングセンター 副センター長)
お二人の先生の対談は非常に示唆に富んだものであり現代の人間の行動の源泉を示唆している。つまり見た目を気にしなかったら、その人の人生は生きていても終わっているのかもしれない。4つの資産はそれぞれ単独では存在し得なく、互いに連動していると思われるが、自分の人生を当てはめ、何が欠けているか?なぜいま状態になったか?を紐解く重要な視点かもしれない。歯科治療もその一端を担っているわけで、かとう歯科医院に来院される方も無意識にこの事実を認めているのであろう。以下二人の対談を読んでいただきたい。Aging Styleからの抜粋である。
次の写真は映画マイフェアレディの撮影風景である。あなたは自分の人生を自ら終わらせていませんか? 見た目で人生を変えてみませんか?マイフェアレデの花売り娘イライザのように。
アンチエイジング医学における「見た目」の大切さを提唱し、研究し続けている近畿大学医学部の山田秀和教授とAging Style編集長で形成外科医の塩谷信幸が「見た目」とアンチエイジングについて話し合いました。
塩谷 山田先生は、最近、研究会や講演会などで「人の見た目は資産になる」とおっしゃっています。どのようなお考えか教えていただけますか。
山田 人間には4つの資産があると考えています。1つ目は土地建物などの「経済的資産(エコノミック・キャピタル)」。2つ目は、学歴や資格などの「個人的資産(パーソナル・キャピタル)」。僕はそこに、既往歴や今、病気にかかっているかどうかも含めて考えています。会社でも、持病があるかないかが昇進に関わったりしますから。3つ目は、人脈などの「社会的資産(ソーシャル・キャピタル)」です。そして、4つ目は、美しさやスマートさといった「見た目」です。
きっかけは、英国の社会学者であるキャサリン・ハキムの『エロティック・キャピタル』という本でした。その中で「服装や顔の美しさなどはエロティック・キャピタルであり、見た目は第4の資産である」と書いていて、読んだときに「これだ!」と衝撃を受けました。
塩谷 「見た目」は経済資産などと同等の資産であるという考え方ですね。
山田 はい。僕は2005年からアンチエイジング医学に関わるようになりましたが、皮膚科では湿疹などで数百円の治療費で済む患者さんがいる一方で、美容外科ではシミのレーザー治療などで多額の治療費を払う患者さんもいます。
肌の治療という意味では同じなのに、金額の差がありすぎることに違和感を覚えることもありましたが、この本と出合い、目からウロコが落ちました。患者さんたちは、美しくなりたいという目的があって、お金で幸福を買っている。トータルで見ると、その人の「資産」として成り立つから、高くても、価値があると思えば治療をするんだと、納得したのです。
塩谷 なるほど。私は10年前に「形より心」という建前を取り払い、「見た目に市民権を与えたい」という気持ちで「見た目のアンチエイジング研究会」を始めました。研究を進めるうちに「見た目も健康の指標になる」というところまで発展しました。近年では、「見た目の市場価値」についても追求したいと思っています。今、先生が言われた第4の資産の中に、「見た目の市場価値」も入ってきますね。すぐに数値化できるかは別として、市場原理が働くには、経済学の手法をどこまで当てはめることができると思われますか。
山田 基本は資本主義の原理とつながっています。例えば、今やほとんどの女性がクリニックやエステで脱毛するようになりましたが、その背景には脱毛機器の性能がよくなり、量産できるようになったということがあります。そして、脱毛するほうが美しいと思わせる宣伝によって、みんなの意識が変わっていきます。ファッションや、化粧品と同じ感覚ですよね。全て、見た目を意識した経済原理の中で動いているのだと思います。
本人の努力次第で輝ける
塩谷 先生は見た目の美しさを左右する「容貌」には、何が影響するとお考えですか。
山田 約2割は遺伝子、約8割は環境因子によって決まると思っています。環境因子とは、運動、食事、精神を指します。そこに最近は、住環境や環境ホルモンといった因子も含めることにしました。化粧品、石けん、お風呂、騒音や空気などを全部含めてコントロールしたら、顔つきが変わってくるのではないかと考えているのです。それによって突然ものすごく美男・美女になることはないでしょうが、本人の努力次第で輝いて見える人にはなれると思っています。
塩谷 そうすると、あまり持って生まれた造作にこだわることはない?
山田 僕はそう思いますね。例えば、映画「マイ・フェア・レディ」のように環境や立ち居振る舞いを変えれば、人は素敵に見えてきます。映画がハッピーエンドだったように、現実の世界でも、環境や立ち居振る舞いは、持って生まれた容貌を超えることができると僕は信じています。
塩谷 逆に、造作の部分を直すことによって、性格も変わるということもありますよね。
山田 実際に顔を少し変えただけで、本人もやる気がでて性格が明るくなったり積極的になったりすることもあります。疾患を治したり標準値に近づけたりすることで、その人がマイナスと思っていたところをプラスに変えることができれば、資産になると思います。健康を見極めるには目ヂカラがポイント
塩谷 ところで、先生は診察時にも「見た目」を重要視されるそうですが、どのようなところを見ているのですか。
山田 最初に見るのは、目です。「目ヂカラ」は非常に重要だと思っています。健康な人は、脳がしっかりしている。脳がしっかりしているかどうかは、目ヂカラに表れます。
塩谷 白目が濁っているなども関係しますか?
山田 黄疸かどうかをチェックはしますが、白目の様子はあまり関係ありません。あとは、皮膚科医の立場から、肌や髪の毛の質をチェックしています。
そのほか、診察室にパッと入ってきたときの第一印象もチェックポイントです。ドアの開け方や歩き方、しゃべり方など、立ち居振る舞いも診察時の参考になります。これらは、東洋医学では、望診(ぼうしん)といわれ、昔から行われてきたことです。教科書には載っていないことですが、見た目や立ち居振る舞いも診察時の大切な要素だと思っています。
塩谷 最近の研究によって、見た目と病の関係が科学的に証明されてきたそうですね。
山田 目の動きで脳の病気が分かったり、耳のシワで動脈硬化のリスクが分かったりなど、見た目と健康の関わりが研究によって数値化できるようになってきました。典型的な例がお腹まわりのサイズで分かるメタボリックシンドロームです。ほかには、呼吸数や汗のかき方などで、人の心理状態まで分かるようにもなってきています。
塩谷 ほかに大切だと思っていることはありますか。
山田 僕は漢方も好きで、「養生」が大切だと思っています。養生とは、暴飲暴食を避け、規則正しい生活を心がけること。いつまでも健康で若々しくあるためには、運動、食事、精神が重要です。どのガイドラインにも示されていることですが、忘れられがちなのも事実です。
塩谷 2015年から食品の機能性表示制度が始まり、どの成分が体にどういいのかを商品に示せるようになったことで、私たちの食や栄養に対する意識も少しずつ変わろうとしています。結局は、美や健康のために、食や運動といったことが重要だという基本に立ち返ってきたということでしょうか。
山田 そうでしょうね。昔から、適度な運動をする、バランスの良い食事をとる、精神を鍛えることは、健康維持のために必須だといわれていましたから。
塩谷 貝原益軒の『養生訓』を改めて読むと、我々が提唱していることなども、多少、表現は違っていますが、江戸時代に益軒が言っていたことは多いですよね。
健康を見極めるには目ヂカラがポイント
塩谷 ところで、先生は診察時にも「見た目」を重要視されるそうですが、どのようなところを見ているのですか。
山田 最初に見るのは、目です。「目ヂカラ」は非常に重要だと思っています。健康な人は、脳がしっかりしている。脳がしっかりしているかどうかは、目ヂカラに表れます。
塩谷 白目が濁っているなども関係しますか?
山田 黄疸かどうかをチェックはしますが、白目の様子はあまり関係ありません。あとは、皮膚科医の立場から、肌や髪の毛の質をチェックしています。
そのほか、診察室にパッと入ってきたときの第一印象もチェックポイントです。ドアの開け方や歩き方、しゃべり方など、立ち居振る舞いも診察時の参考になります。これらは、東洋医学では、望診(ぼうしん)といわれ、昔から行われてきたことです。教科書には載っていないことですが、見た目や立ち居振る舞いも診察時の大切な要素だと思っています。
塩谷 最近の研究によって、見た目と病の関係が科学的に証明されてきたそうですね。
山田 目の動きで脳の病気が分かったり、耳のシワで動脈硬化のリスクが分かったりなど、見た目と健康の関わりが研究によって数値化できるようになってきました。典型的な例がお腹まわりのサイズで分かるメタボリックシンドロームです。ほかには、呼吸数や汗のかき方などで、人の心理状態まで分かるようにもなってきています。
塩谷 ほかに大切だと思っていることはありますか。
山田 僕は漢方も好きで、「養生」が大切だと思っています。養生とは、暴飲暴食を避け、規則正しい生活を心がけること。いつまでも健康で若々しくあるためには、運動、食事、精神が重要です。どのガイドラインにも示されていることですが、忘れられがちなのも事実です。
塩谷 2015年から食品の機能性表示制度が始まり、どの成分が体にどういいのかを商品に示せるようになったことで、私たちの食や栄養に対する意識も少しずつ変わろうとしています。結局は、美や健康のために、食や運動といったことが重要だという基本に立ち返ってきたということでしょうか。
山田 そうでしょうね。昔から、適度な運動をする、バランスの良い食事をとる、精神を鍛えることは、健康維持のために必須だといわれていましたから。
塩谷 貝原益軒の『養生訓』を改めて読むと、我々が提唱していることなども、多少、表現は違っていますが、江戸時代に益軒が言っていたことは多いですよね。
新しいツールと医療の連携の可能性
塩谷 先生は機械もお好きだから、最近のウェアラブル端末などもお使いになられていますか?
山田 アップルウォッチを使っています。何かすると褒めてくれるのがいいですね。アップルウォッチは、1時間座っていたら、「1時間座っていました。立ちましょう」と言ってくれる。それで立って少し動き回ったら、「よく頑張りましたね」と。それを1日12回ぐらいすると、「今日は達成しましたね」と褒めてくれるんです。続けるうえで声かけされることは大切なことだと思います。米国で行われたダイエットの比較研究でも、声かけをされたほうが、成績が良くなるという報告がありました。
塩谷 ウェアラブル端末とアンチエイジングとのつながりはあると思われますか。
山田 あると思います。たとえば、紫外線を正確に測定する装置が出てくれば、注意も向けられるし、どれだけブロックすればいいかも正確に分かります。すごく役立つと思います。
塩谷 なるほど。ほかにはどういうチェックポイントがありますか。
山田 血糖値も測れます。基本的には光を出して、皮膚から返ってくる反射を見るというのが一般的で、理論上は皮膚表面で計測ができるものなら何でも測れるはずです。
塩谷 そうすると、肌診断も簡単にできるようになるかもしれませんね。
山田 はい。それだけでなく、貧血や黄疸もチェックできます。糖化、酸化なども、分子を特定すれば測るのは比較的簡単ですから、アンチエイジング医学に役立つツールもそのうち出てくるのではないでしょうか。
塩谷 そういうツールが開発されたら、わざわざクリニックに行かなくてもよくなるかもしれませんね(笑)。
山田 ウェアラブル端末がもっと進化すれば、たとえば、マラソン中に心筋梗塞が起こる予兆をチェックしたり、どの人にそういう危険があるのかが位置情報で特定できたりしますよね。そうしたらそこへスタッフが急行する。そんなことも可能になるのかもしれません。
塩谷 あと、人の声を拾うこともできそうですね。あまり喋っていなかったら「もっとコミュニケーションをとろう」とウェアラブルにアドバイスされたりして。もっといくと、これは外交辞令か本音なのかまで分かってしまうかも(笑)。
山田 ウソ発見器のようなことはすでに行われているそうです。表情筋や瞳孔の動きで判断するそうです。日本人は目が黒いからあまり瞳孔の動きが分からないですが、目の色が薄い人は、瞳孔の動きがよく分かります。海外では、カラーコンタクトは、瞳孔の動きを隠すためにも用いられることがあります。
意識を継続させることが重要
塩谷 「見た目のアンチエイジング」には美しさや健康に注意を向けることの大切さがありますが、意識を継続させることも大切ですよね。
山田 自分自身に気遣っていると、見た目や健康だけでなく、仕事もきっとうまくいくのではないでしょうか。昔からよく言われる健康の秘訣「早寝早起き、朝ごはん」。それはすごく基本的なことですが、重要なのだと思います。
塩谷 自分の見た目を気遣う、意識するということが若さを維持するだけではなくて、生活にも仕事にも影響してくると考えると、やはりライフスタイルの中で常に実践していくことが大切と言えますね。
山田 そうですね。いつまでも若々しく健康でいるためには、「日々の健康管理は自分でする。それでも病気になってしまったらお医者さんへ」という考えのもと、セルフメディケーションを意識してほしいと思います。
塩谷 「見た目のアンチエイジング」は今後どうなっていくと思われますか。
山田 以前、ヨーロッパの医学系の出版社から、肌のエイジングに関する書籍を制作するので、寄稿してほしいという依頼がきました。そこで、「Appearance(見た目)について書かせてほしい」と言ってみたところ、通ったんです。少し前だったら、医学系の本に「見た目」というテーマで書くということは認められませんでした。確実に時代が変わってきていると思います。これからは、もっとサイエンスに基づく「見た目」の研究が深まっていくのではないでしょうか。
塩谷 本日は、ありがとうございました。
近畿大学医学部奈良病院皮膚科教授・
近畿大学アンチエイジングセンター 副センター長
大阪府出身。近畿大学医学部卒業、同大学院修了。この間、大阪大学細胞工学センター(岸本忠三研)への国内留学、オーストリア政府給費生(ウィーン大学皮膚科、米国ベセスダNIH免疫学教室)等で研鑽を積む。近畿大学在外研究員(ウィーン大学)、近畿大学医学部奈良病院皮膚科助教授を経て現職。日本皮膚科学会専門医、日本東洋学会指導医、日本アレルギー学会指導医、日本抗加齢医学会専門医。
アレルギー等皮膚科領域はもちろん、その領域にとらわれず医療全分野の文献を研究、予防医学の観点から診療にあたる。文化人類学、社会学等にも造詣が深く、「日常に届く医療」の為の情報提供に尽力している。
2016年加齢皮膚医学研究会会長、2017年美容皮膚科学会会長を務めた。2018年第18回日本抗加齢医学会会長予定。